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えすえふを書くのを、既にあきらめている…。 久しぶりに小ネタ。 倉橋由美子の短編集を読んでたらふと書きたくなったので。 オマージュ、というのもおこがましいけど…ちょびっとだけネタお借りしました。 パロディのお遊びということで、ご容赦を。 倉橋由美子を愛しているのだ。 特に「ポポイ」と「聖少女」は神作品。 傲慢な美少女と美少年の首は正義だと思うんだ…(うっとり) とうぜん「サロメ」も愛している。 でもさすがに、アルトさんの首は切れませんでした(笑) (ぶっそうなネタ自重) …シェリルの首なら、ちょっと飾ってみたいような気も…(おいおいおい!) 瓶詰め妖精の妄想再び。 大丈夫、そんな物騒なネタじゃない(笑) 「水泡」 海岸に建てられた小さな保養所には部屋が五つしかない。 しかし今、この宿には一組の男女しか泊まっていなかった。 二人で相談の結果、五つの中で一番小さな部屋を選んだ。その部屋が一番海に近く、窓が大きかったからだ。 部屋は、保養施設というよりむしろ、海を見張る灯台のようだった。 「キレイ」 海の色は絶えず変化するので飽きることがないとシェリルは言う。窓からの眺めが気に入ったようだ。 「ルカに感謝しないとな」 この保養所は、バジュラ本星の水質調査プロジェクトに従事するメンバーのために建てられたもので、一般には未だ開放されていない。プロジェクトの中枢に彼らの友人であるルカ・アンジェローニが関わっているため、彼の好意で数日のあいだ保養所を貸し切りにしてくれたのだ。 忙しい二人が人目を気にせずゆっくり過ごせる時間は少ない。彼らは友情に甘えることにして美しい海の景色を二人きりで鑑賞した。 「とってもぜいたく」 「気に入ったなら、良かった」 「今度はみんなで来られるといいわね」 「この区域は調査がほとんど終わってるらしいから、開放区域に移行するのも、もうすぐだ。次には皆で来られるかもな。もっとも他にも大勢来るだろうから、こんな静かな海じゃないかもしれない」 「あら、今だって静かじゃないわよ。波の音も、風の音もするもの」 「人の声はほとんどしないだろ」 「アルトのお小言の声だけね」 「ちぇ。それよりはおまえの歌声の方がいいな」 よろしい、とシェリルは頷いて、澄んだ歌声を風に乗せた。 銀河の妖精の詩が、波の音と解け合って調和の取れた旋律となる。 アルトはその悦びにひたるべく、目を閉じた。 昼の海も美しいが、夜の海もまた抗いがたい力を持っている。 目の覚めるような青い海面と絶え間ない水の流れは、惑星に降下した際に感じたあの、飛翔する空と頬にあたる風を思い起こさせる。 対して黒々とした闇に飲み込まれた夜の海岸線は、どこまでも永久に駆け抜ける宇宙の深淵に似ていた。自分が消えてしまいそうな恐怖を覚えるのに、闇を切り裂いて黒河の果てまで飛んでゆきたくなるのだ。 「この景色、どこかで見たことがある」 シェリルがつぶやいた。 「グレイスと一緒にコンサートツアーで各船団を巡っていた時にこれと同じ景色を見たわ。シャトルの展望窓から見る宇宙は真っ暗で、でも全然恐くなかった。この空の向こうに私の歌を待っている人がいると思うと、興奮で震えたわ」 決別したかの人の名を、今ではごく自然に口にする。 そうやってグレイス・オコナーの名は、彼女の中で過去へと変わる。時間の波に洗われて、とがった痛みを持つそれは丸く優しいものに変わる。 未だ変化の途中だが、いつかはまろやかな玉に変わるのだ。彼女はそれを知っている。 ならばその時が来るまで、記憶にまつわる痛みを共有しようと、彼は自分に誓う。 シェリルは魅入られたように黒い海から目を離さない。 「どこまでも飛んでゆけそう」 妖精と呼ばれるこの女は時折ひどく儚く、脆く見える。 アルトは彼女の腕をつかんだ。 白い二の腕は折れそうなほど細かった。 「もし病気が再発したら」 彼女の瞳は海を見つめている。 「バルキリーに乗ってどこまでも飛んでゆくわ。バサラのように、歌いながら」 それは想像するだけなら実に美しい光景だった。 バルキリーに乗った歌姫が天上の声を響かせながら真空の空を駆けてゆく……永遠の旅路をたったひとりで。 「じゃあその時は、バルキリーの操縦はオレに任せるんだな」 アルトはコントロールパネルのキーを叩き、透過型ウィンドウの視界を遮断した。 夜の海を映していた窓はただの壁へと切り替わり、同時に室内の照明が落ちた。 光を絞った室内はまるで、水泡の中に二人閉じこめられたようで、恋人と二人きりなら心地よい密室となる。 波の音はもう聞こえない。 シェリルが不思議そうにこちらを見つめてくるので、「置いてく気だったのかよ」と口をとがらせた。 「だって……」 「おまえの乗る機体の操縦をオレ以外の誰がするんだよ」 困ったように眉を寄せる恋人の肢体を褥に押し倒し、かすめ取るような軽さで唇に触れた。 「ひとりぼっちにもなれないのね」 「そうさ、覚悟しとくんだな」 言葉遊びの戯れはそこで終わり。 二人は二人だけの遊びに没頭することにした。 泡の中に閉じこめられる恋人たちは、 世界から見放され、 同時に世界を拒絶しているのだ。
by ktsukisan
| 2010-09-02 03:53
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